MBTIの歴史:第13話|それでも書かずにはいられなかった

── 『Gifts Differing』執筆と病との闘い ──

病床で『Gifts Differing』を執筆するイザベルの漫画

🔷それでも書かずにはいられなかった

― 『Gifts Differing』執筆と病との闘い ―

🌱 導入:その言葉は、遺言ではなく“贈り物”だった

MBTIの理論が広まりはじめた頃、イザベル・ブリッグス・マイヤーズは一つの決断に迫られていました。
それは、自らの言葉でMBTIの思想を残すということ。

「まだデータが足りない」
——そう言い続けていた彼女が、筆を執る決意をしたのは、病床にあったときでした。

執筆を後回しにしてきたのは、完璧を目指していたからではありません。
実証こそが大切という、彼女の信念だったのです。

けれど時間は有限でした。がんの診断を受けたとき、彼女はようやく心を決めます。

📘家族と綴った“生涯の記録”

1970年代後半、イザベルは息子ピーター・マイヤーズの協力のもと、執筆を開始します。

・タイプ論の全体像
・MBTIの具体的な活用例
・性格の違いが人生にどう作用するのか
・「違いは贈り物である」という思想

これらを、一般読者にも届く言葉で丁寧に記録していきました。

イザベルは、単なる診断ツールとしてではなく、
MBTIを“人間理解の思想”として伝えたいと強く願っていたのです。

「人は違う。だからこそ、支え合える」
その思想を、次の世代へと受け渡したい——

書きながら、彼女は自身の半生をなぞっていたのかもしれません。

💡病と闘いながらも、最後まで

執筆は、簡単なものではありませんでした。
がんとの闘病のなか、体力は衰え、起き上がれる時間も限られていたと言われています。

それでも彼女は、最後まで推敲と校正を手放さなかった。

・タイプ論の誤解が起きないように
・読者が自分を受け入れられるように
・遺した言葉が“生き続ける”ように

「今この瞬間が、MBTIを語れる“最後の時間”かもしれない」
そんな思いで、ページの一文字一文字に魂を込めていきました。

そして完成したのが、MBTIの集大成にして名著、
『Gifts Differing(ギフツ・ディファリング)』。

そのタイトルには、イザベルがMBTIに込めた最大のメッセージが込められています。

“違いは、贈り物である”
“違っているからこそ、美しい”

この一冊は、彼女の“哲学”であり、そして最後のラブレターでもあったのです。

🪞今も読み継がれるMBTIの原点

『Gifts Differing』は現在も、MBTI理解の出発点として多くの人に読まれています。

・初学者が“4文字の意味”を超えて理解する手がかりとして
・組織でMBTIを導入する際の思想的支柱として
・セラピーや人間関係改善の文脈でも引用されることが多い一冊です

MBTIの普及後に現れた商業的ツールとは異なり、
この書籍は“思想の原典”とも言える存在です。

もしあなたが「MBTIとは何か?」を本質的に知りたいなら、
この本は、最初で最後のナビゲーターになるかもしれません。

🔚言葉を残すとは、未来とつながるということ

1980年、イザベル・ブリッグス・マイヤーズは『Gifts Differing』の完成直後に、静かにこの世を去りました。
けれどその言葉たちは、今も多くの人の人生を照らし続けています。

「違いは、間違いじゃない」
「違いこそが、あなたの贈り物」

MBTIという地図が、なぜこれほど長く使われ続けているのか。
その答えのすべてが、この一冊に宿っています。

次回は、MBTIが残した“愛のかたち”に迫ります。

結婚、家族、葛藤、そして理解。
MBTIがあったからこそ生まれた、人生を変えるまなざしの物語です。